GYA Statement

 

The GYA issued the conference statement “Fukuoka Declaration on Science-Society Relationship” in November.
https://globalyoungacademy.net/gya-releases-fukuoka-declaration-on-science-society-relationship/

 

以下、日本語に翻訳しました。

福岡宣言:社会と科学の関係を変えるための行動に関する宣言
包括的で持続可能な未来のための感性と理性の調和


前文
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、各国は大きな努力を重ねているが、世界的に前向きな変革をもたらすためには、さらなる努力が必要である。科学研究はいまだ断片的であり、科学に対する信頼は多くの場所で脆弱である。私たちが直面しているグローバルな課題に取り組むために、新しい世代の研究者が分野を超えて協力し、科学を再生させる必要がある。
 2022年6月、グローバルヤングアカデミー(GYA)は、日本学術会議若手アカデミーと協力し、メンバーおよびアルムナイに加え、世界各国から若手研究者(ECR)、学生、科学政策関係者を招集し、学問分野のサイロを超える方法について議論した。学際的なサイエンスアカデミーとして、GYAでは自然科学、物理科学 、社会科学、工学、医学、芸術、人文科学の分野間の協力を促進し、科学と学術についてより人間志向の視点を発展させることを目指している。
 世界80カ国から791名(会場参加139名、オンライン参加652名)が参加し、福岡の九州大学で開催された。開催地として選ばれたのは、同大学が生物多様性に関する知識を共有する方法の一例を示しているためである:エンジニアと科学者が協力して、情報通信技術(ICT)を活用し、地域の生態系を調和させることで、 持続可能なキャンパスを構築している。これは、2022年国際若手科学者会議のテーマと以下の声明に関連している。このため、声明のタイトルを「福岡宣言」とした 。


理性と感性の調和とは何か?

 科学は合理的、非人間的、功利的な力以上のものである。科学を感情的知性、常識、文化的感性と結びつけることで、社会との新たな絆を築き、既存の絆を強化し、信頼を回復することができる。また、伝統と科学という表面的な対立を超えることも重要である。人間の直感、芸術的創造性、取り残されてきた学問分野、土着の知識などを考慮することは、科学を豊かにし、知識基盤を広げ、このプロセスをより包括的なものにする手段なのである。
 会議の参加者は、科学者と市民の間で共通の目標を共有し、これらの目標を達成するための行動計画を策定することの重要性について議論した。ECRは、持続可能で包括的な未来をもたらすために、このメッセージを様々な聴衆に伝えるリーダーや仲介者の役割を果たすことができる。この声明にある提言は、この議論にまだ参加していないECR、世界の科学コミュニティで積極的な役割を果たし、若い世代をサポートする能力を持つシニアの科学者、世界や地域の科学コミュニティで多様な役割を担うステークホルダー、そして科学に関わり、関心を持つ一般の人々に情報を提供することを目的としている。


共通の目標とは何か?

私たちは共通の目標として、あらゆる状況において理性と感性の良好なバランスを確保し、このバランスを以下の領域において科学と社会のより良い関係のために活用することを挙げている:
– 科学者と社会の双方に、創造性、好奇心、コミュニケーションを大切にする力を与える。
– 科学者、ステークホルダー、市民の間に信頼を築き、強化する。
– 科学的な説明を受けた意思決定者を支援する。
– 市民にとって重要な問題を解決するために、市民がボトムアップのニーズを科学的プロセスに持ち込むことを促進する。


どうすればそれを達成できるのか?

私たちは、理性と感性の調和を達成するための3つの行動領域を以下に抽出する 。
1. 社会と協力して、科学を形式的にオープンにするだけでなく、実質的にアクセス可能で魅力的にする。- これを実現する鍵は対話にある。対話とは、互いを知らない者同士、あるいは必然的に異なる価値観を持つ者同士の情報交換を意味する。私たちは、科学者、ステークホルダー、そして市民の間での継続的な対話を奨励している。この目的を達成するためには、科学共同体において論理的な理解だけでなく、さまざまなステークホルダーに繋がるための高いレベルの共感を育む必要がある。以下の科学と教育に関する推奨事項は、本会議での議論から生まれた。
– 対話は、ミーティング(オンラインや対面)、ニュースレターの送付、ブログ、ソーシャルメディアなど、さまざまな方法で行うことができる。
– 例えば、 オンライン学習システム(「すべての人に開かれた」*1大学)など、あらゆる学生 ・市民が情報にアクセスできるようなデジタル変革を推進することによって、大学は継続的な対話のプラットフォームとして機能することができる。情報へのアクセスには、誤解や科学的プロセスへの信頼の喪失を避けるため、情報の解釈の仕方やその限界に関する支援や教育が伴われるべきである。
– 科学的創造性、すなわち科学の “楽しい”側面は、さまざまなアクターと科学を結びつける鍵として機能しうる。共通言語としての創造性は、コラボレーションの強化を通じて私たちをさらに前進させ、私たちの統合能力を高めることができる。生涯学習の選択肢は、あらゆる世代の創造性を維持し、さらに向上させることに大きく貢献する。
*1. “Open for all”:一般公開されたオンライン講座等を指す。

2. 市民の知恵と科学的知識を統合し、社会のために活用する。- 知識の生成や利用における権力のバランスを認識することは重要である。例として、学問のアイボリータワーとしての学界や、Global NorthとSouthの間の知識格差が挙げられる。この権力のバランスを倫理的に取り扱い、知識を統合するためには、その認識が必要不可欠である。これには、持続可能性の課題を、惑星、社会、生態の正義の課題として理解し、気候、生物多様性、貧困、不平等といった交差する危機に取り組むことが含まれる。すべての関与者が、私たちをお互いや地球に結びつける相互依存のシンビオティックなネットワークの一部として認識し、行動することが必要である。これを実現するための推奨事項として:
– 将来の世代や市民のために、文化的多様性、言語、土着(地元)の知識の重要性を確固として認識すること。これは、先住民コミュニティやアーティストと科学者や学者との協力によって強化される。非常に複雑なシステムの豊かさは、分散ネットワークを介してのブリッジの構築と、分断された研究成果を組み合わせた知識移転によってのみ実現できることを認識することは重要である。
– 先住民コミュニティと少数派グループとの間の新しい連携を提案し、その脆弱性を能力向上の手段としてのエンパワーメントへとシフトさせる。
– すべての段階での教育プログラムを設計する際に、人間の多面的な側面を認識する。特定の内容を知るだけでなく、感情、ニュアンス、質感、テキスト言語を超えた洞察を評価し、表現する方法を学ぶことに焦点を当てる。これには、芸術、楽譜、振り付け、視覚的セマンティクス、多次元的思考が含まれる。
– 拡張された言語としての創造性を高めることで、技術的アプローチと革新的な視点との間の関連性も明らかにすることができる。創造性を評価した後、全ての差別の形態を超えて公正な知識の普及を通じて共通の善のために創造的な力を活用することができる適応可能な戦略に焦点を当てることが重要である。
– シチズンサイエンス*2の取り組みを歓迎することで、社会的対話の源泉としての創造性を保持する。
*2. シチズンサイエンスについては、日本学術会議提言「シチズンサイエンスを推進する社会システムの構築を目指して」参照。https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-24-t297-2-abstract.html

3. 若手研究者のリーダーシップ能力を開発し、そのような努力をする人々を奨励・育成する仕組みを作ることを目指す。- 若手研究者(ECR)は、より起業家的になり、リーダーシップの役割を開発し獲得する必要がある。これには、効果的なファシリテーションスキルを適用し、人々の間の距離を埋めることが含まれる。同時に、彼らを奨励する仕組みを作る必要がある。GYAは、Young Academyのコラボレーション*3、オープンな学界、学際性、および他のステークホルダーとの連携を奨励するプラットフォームとなることができる。さらに、科学の卓越性についての議論を進めることや、資金調達の評価システムを多様化することが重要である。例えば、科学者の科学コミュニケーションや公共サービスへの参加を反映する評価をサポートすることで、関与者がそのような努力を続けるための十分な資源を受け取ることができる。
– リーダーシップの育成のために、ECRは、芸術、スポーツ、一般的な問題に関する討論など、科学に限定されない活動を通じて共感を実践することを強く奨励されている。また、異なる背景や専門分野の科学者、市民、その他のステークホルダーとの対話を継続し、異なる価値観や考え方を理解することが推奨されている。
– 科学者は、グローバルおよび地域の科学コミュニティのメンバーが多様性を持つよう努力する必要がある。
– 科学者は、グローバルな研究エコシステムとの連携を築くことで、社会に対するコミットメントを果たすべきである。
– 科学コミュニティは、科学者が知識と研究の長期的な影響の潜在的なインパクトを政策立案者や一般市民に伝え、選択肢を提供し、彼らの意思決定をサポートするためのシステムを確立する必要がある。一つの基準に基づく意思決定は時として疑問を引き起こすことがある。その一例が現在の大学ランキングである。ランキングの正当な情報源について議論する必要があり、特定の国や学問分野の文化によって「正当」とされるものが定性的(非数量的)評価であることを強調することが必要である。
– 大学は、我々が今日持っている解決策、あるいは開発される予定の解決策が持続可能であることを確保するため、21世紀の問題解決者を教育する必要がある。大学の改革は、異なる国や教育制度でのベストプラクティスや経験を共有することを基盤にするべきである。これにより、大学間の教育協力が促進され、すべての研究者にとってバランスの取れたエコシステムの優先をサポートすることができる。

GYAは、これらの行動のための対話の中心として機能する。

*3. 2022年11月時点で、世界中で54のNational Young Academyが確認されている。https://globalyoungacademy.net/national-young-academies/


GYAについて

GYAのビジョンは「全ての人々のための科学、未来のための科学」であり、その使命は、世界中の若手の科学者や研究者たちに声を届けることである。2010年に設立されたGYAは、6つの大陸から選ばれた200人の優れた若手から中堅の研究者からなる独立した科学アカデミーであり、彼らは学問的な卓越性と社会との関わりへの取り組みを基に分野を超えて選出されている。GYAのメンバーは5年の任期を務め、現在GYAは100の国から会員と同窓生を有している。GYA事務局は公的資金で運営され、ドイツ国立科学アカデミーのレオポルディーナ内に設置されている。GYAの多岐にわたる活動は、さまざまな国際的な公的および民間の資金提供者によって支援されている。

日本語訳:新福洋子(2023年9月)

 

謝辞:本作品は、JST「世界で活躍できる研究者育成プログラム総合支援事業」の支援を受けて作成しました。